「訪問マッサージFCで独立できますか?」と聞いた日——KEiROWとフレアスを調べてわかった、介護×ヘルスケアビジネスの可能性と現実
友人に、理学療法士の資格を持ちながら病院勤務を辞めた人間がいる。給料は安くないが、シフト勤務と人間関係に疲れ果て、「自分のペースで働きたい」という一心で退職を決めた。彼女が次に目をつけたのが、「訪問マッサージのフランチャイズ」だった。
「飲食はリスクが高いし、コンビニは365日縛られる。でも訪問マッサージなら、自分の専門知識が活かせる。高齢化で需要も伸びる一方だし、FCなら仕組みがある。良さそうじゃない?」
彼女の言葉を聞いて、私は少し羨ましくなった。明確な資格と、明確な需要と、明確な理由がある。でも実際に調べてみると、訪問マッサージFCはそう単純ではなかった。彼女と一緒に説明会の準備をするなかで、私が気づいたことをここに記録しておく。
訪問マッサージFCとは何か——まず仕組みを理解する
訪問マッサージとは、国家資格を持つ施術者が、通院困難な高齢者や障がい者の自宅・施設に出向いてマッサージ・鍼灸を行うサービスだ。費用は「医療費」として健康保険が適用される場合が多く、患者の自己負担は1〜3割。つまり月に数万円のサービスを患者が数千円で受けられる仕組みになっている。
ここが重要なポイントで、訪問マッサージは「保険診療報酬」を収益の基盤とする。飲食や小売と違い、景気の波に左右されにくい、安定的なキャッシュフローが特徴だ。2026年時点で日本の65歳以上人口は約29%。訪問マッサージの潜在的な顧客基盤は年々広がり続けている。
フランチャイズとして独立する場合、大きく2つの役割がある。
- 自身が施術者として動く(有資格者として独立するパターン)
- 施術者を雇用し、経営者として運営する(無資格でも可能なパターン)
このどちらを選ぶかで、必要な初期投資も、日常の業務も大きく変わってくる。
KEiROWとフレアス、何が違うのか
訪問マッサージFC市場で存在感を持つのが、KEiROW(ケイロウ) と フレアス在宅マッサージ の2社だ。どちらも数百店規模のチェーンだが、成り立ちも哲学も異なる。
KEiROW(ケイロウ)——おそうじ本舗グループの訪問マッサージ
- 初期投資目安:400万円〜700万円
- 店舗数:約350店舗
- 展開:HITOWAグループ(おそうじ本舗・タスカジ等を擁する)
KEiROWの特徴は「介護インフラ」としての位置づけにある。おそうじ本舗という巨大ネットワークを持つグループの一員として、法人向け・施設向けの契約獲得をバックアップしてもらえる体制が整っている。初期投資が比較的抑えられているのは、店舗を構えず「出張型」に徹しているからだ。患者の獲得・保険請求・スタッフ管理のシステムはFC本部が提供する。
フレアス在宅マッサージ——唯一の上場企業(東証グロース)
- 初期投資目安:600万円〜1,000万円
- 店舗数:約335店舗
- 展開:東証グロース市場上場(証券コード:7062)
フレアスの最大の特徴は、訪問マッサージ会社として唯一の上場企業であること。創業者・澤登氏が現役の鍼灸マッサージ師であり、現場感覚に基づいた研修体制に定評がある。初期費用がKEiROWより高い分、ブランド力と採用支援体制が手厚い。
数字だけ見れば似たような規模感だが、KEiROWはコスト重視の立ち上げを、フレアスはブランド・採用力を重視する方針の差がある。
最大のハードル——「有資格者を集められるか」問題
訪問マッサージの施術には、あん摩マッサージ指圧師・はり師・きゅう師のいずれかの国家資格が必要だ。これは法律で定められており、無資格者が行えば医師法違反になる。
自分が資格保有者なら問題ない。しかし「資格はないが経営者として参入したい」という場合、有資格者の雇用がビジネス存続の鍵になる。
ここで多くの加盟検討者が壁にぶつかる。
- あん摩マッサージ指圧師の有資格者は全国でおよそ11万人(2023年)
- 有資格者の多くは病院・接骨院・鍼灸院への就職を好む
- 訪問マッサージの施術者は1日5〜8件訪問が標準的で体力的にきつい
つまり、有資格者の採用競争が熾烈で、採用できない・定着しないことで運営が止まるリスクがある。実際に、訪問マッサージFCで「スタッフが辞めて営業継続が難しくなった」という声は少なくない。KEiROWもフレアスも、採用支援を重要な本部サービスとして掲げているのは、この課題が普遍的だからだ。
保険ビジネスの「良さ」と「制約」
訪問マッサージが健康保険を使えるのは大きな強みだが、同時に制約でもある。
保険請求のメリット:
- 患者の金銭的ハードルが低く、継続利用につながりやすい
- 単価は固定されており、「売れない月」が起きにくい
- 医師の同意書があれば安定した収入基盤ができる
保険請求の制約:
- 売上は保険点数で決まるため、サービスを差別化しても単価は上げられない
- 医師の同意書を取得・更新し続ける手間がかかる(3ヶ月ごとの更新が必要)
- 診療報酬改定によって点数が下がるリスクがある
2024年度の診療報酬改定では訪問マッサージ関連の点数に一部変動があり、加盟者の収益計算が狂ったケースも出た。収支シミュレーションは最新の保険点数をもとに、改定リスクを含めて計算する必要がある。
加盟前に必ず確認すべき5つのこと
訪問マッサージFCを検討するなら、説明会前に以下を整理しておくことをすすめる。
1. 自分は施術者として動くか、経営者として雇う側になるか
どちらを選ぶかで、必要な資格・初期投資・日常業務がまったく変わる。
2. テリトリー内の競合状況
訪問マッサージのエリアは介護保険圏域と重なることが多い。既存の接骨院・鍼灸院・競合FCが多い地域は患者獲得が困難になる。
3. 有資格者の採用計画
「本部が採用支援する」という説明を鵜呑みにせず、「直近1年で加盟店が採用できた平均人数」を具体的に聞く。
4. 医師との連携体制
患者の紹介元は地域の医療機関・ケアマネジャーが主力。本部が紹介ルートを持っているか、自力で開拓が必要かを確認する。
5. 保険請求処理のサポート
保険請求は専門性が高く、ミスすると返戻(差し戻し)が発生する。本部のサポート体制と、実際の請求エラー率を聞いてみてほしい。
「介護と医療の間」にある、珍しいビジネス領域
友人は最終的に、フレアスの説明会に足を運んだ。彼女の感想はこうだった。「思ったより経営の側面が強かった。採用・請求・患者管理……自分が施術するだけじゃ全然ダメで、管理者として動く覚悟がいると分かった」。
良い意味での気づきだったと思う。訪問マッサージFCは、医療・介護の専門知識と、経営のスキルを同時に求められる。「有資格者で独立したい」という動機は正しいが、フランチャイズに加盟するということは、経営者になるということだ。
高齢化が加速する日本では、訪問マッサージの需要は確実に増える。ただしその市場を取るためには、採用と請求管理という「地味で大切な仕事」を正面から引き受ける覚悟がいる。
独立を考えているなら、説明会のわかりやすい数字よりも、加盟店の「日常」を教えてもらうことから始めてほしい。そこにこそ、本当のビジネスが宿っている。