地方移住×FC開業という選択——東京を離れて地方でFCを始めた人の3年後
「もう東京にいる理由がなくなった、と気づいたのは、リモートワークが普通になってからです」
そう話してくれたのは、埼玉県出身で10年以上都内の広告代理店に勤めていた40代の男性だ。2022年、会社の完全リモート化を機に妻の地元である新潟県の地方都市に移住。同時期に、ハウスクリーニング系のフランチャイズに加盟した。「移住して仕事も変えて、いいとこ取りをしたかった」という言葉に、2020年代前半の空気が凝縮されている。
あれから3年が経った。今の彼は、地方でフランチャイズ経営を続けながら、「思っていたのとは全然違う」と静かに言う。悪い意味だけではない。ただ、知らなかったことが多すぎた、という話だ。
同じような選択をしようとしているあなたに、その「知らなかったこと」を先に渡したい。
なぜ「地方移住×FC開業」は増えているのか
地方移住とフランチャイズ開業を組み合わせる動きは、コロナ禍以降に急増した。国の移住支援金制度(最大100万円)や、各自治体による開業補助の拡充が追い風になった側面もある。
一方、フランチャイズ本部側にも背景がある。全国規模のFCチェーンが直面している最大の課題のひとつが、地方への出店不足だ。 都市圏では競合が多く、出店コストも高い。人口数万人規模の地方都市には、同業のFCが存在しないエリアも多く残っている。本部からすれば、移住者がオーナーとして手を挙げてくれることは、まさに好都合だ。
加盟説明会でも「地方は競合が少ない」「都市部より立地コストが低い」「補助金が使える」といった文脈で地方移住を後押しする事例が増えている。
では、実際に移住してFCを開業した人は、3年後にどんな現実に立っていたのか。
商圏の現実——「競合がいない」の意味を履き違えてはいけない
地方でFCを開業するうえで、最初に直面するのが商圏人口の壁だ。
都市部では半径1kmの商圏に数万人が住んでいるエリアも珍しくない。一方、地方の中核都市でも、同程度の商圏に含まれる人口が5,000〜1万人程度という地域は多い。「競合がいない」のは事実でも、そもそも市場のパイが小さい、という現実は見落とされがちだ。
先ほどの男性が加盟したハウスクリーニングFCは、本部が提示した「1世帯あたりの年間発注単価×エリア世帯数」の試算を根拠に事業計画を立てていた。数字の計算は正しかった。しかし実際の需要喚起にかかる時間と費用が、試算には含まれていなかった。
地方では口コミが命綱になる。一度信頼を得れば安定したリピート客がつくが、そこに至るまでの助走期間が、都市部より長い傾向がある。「半年で軌道に乗る」という本部の説明は、都市部の平均値であることが多い。地方での実態は1年以上かかることも珍しくない。
また、地方の生活者が「フランチャイズサービスを使う」という習慣そのものが薄い業種もある。クリーニングや整理収納、介護系のサービスは都市部では一般化しているが、地方では「そういうのは自分でやるもの」という意識が根強い地域もある。
「競合がいない」とは、「市場が育っていない」とイコールの場合もある——この視点を持たずに移住×FC開業に踏み込むと、想定より大きな苦労を背負うことになる。
採用の壁——地方の人手不足はFC加盟者にも容赦ない
地方移住×FC開業でよく語られる「理想」のひとつに、「東京の喧騒から離れ、ゆっくりとした環境で小さな商売を続ける」というイメージがある。しかしスタッフを必要とするFCでは、この理想は最初の壁にぶつかる。
地方の有効求人倍率は、都市部と比べて職種によっては高い。 特に飲食・清掃・介護・保育系は深刻だ。都市部でも採用が難しいと言われるこれらの職種は、地方では拍車がかかる。若年労働力が都市部へ流出しているからだ。
あるFC加盟者は、東北地方の人口10万人都市でリラクゼーションサロンを開業。スタッフを4名採用する計画だったが、開業6ヶ月で常勤スタッフを2名しか確保できず、オーナー自身が週6日立つ羽目になった。「地方のほうが人件費が安い」というイメージを持って移住したが、採用できなければコストの問題以前に店が回らないという現実があった。
本部のサポートについても確認が必要だ。都市部の出店に慣れた本部は、採用支援を「地元求人媒体への掲載支援」程度で済ませることが多い。しかし地方ではそもそも求職者の数が少なく、媒体の効果が限定的だ。「本部に頼っても、地方での採用は加盟者が自力で解決するしかない」という声が複数の加盟者から出ている。
3年後の財務リアル——「地方だから安い」は一部しか正しくない
地方移住をFC開業と組み合わせる際の財務的なメリットとして語られるのが、物件費・生活費の安さだ。これは確かに事実だ。都市部に比べ、テナント坪単価は半分以下になることも多い。生活費も、住居費を中心に3〜5割程度安くなるケースが多い。
しかしFC経営における収益性は、これだけでは語れない。
売上の絶対額も地方では小さくなる傾向がある。固定費は下がっても、売上上限も下がるという構造だ。月商300万円を目指す飲食FCが都市部で8ヶ月で達成できたとして、同じFCを地方で展開した場合、月商200万円に届くまで1年半かかったという事例も存在する。
加えて、配送コストや業者費用が都市部より割高になる場合がある。食材・消耗品の仕入れルートが限定され、本部指定の業者から取り寄せると送料が嵩む業種もある。
移住にかかったコストも忘れてはならない。引越し費用、新居の初期費用、移住前の準備期間中の収入ゼロ期間——これらは事業計画書には載らない。「生活費が安くなる」は移住後の話で、移住するまでに出費が集中するという構造を理解しておく必要がある。
3年後の数字を振り返ると、地方移住×FC開業を実行した人の中で、「当初の事業計画通りに推移した」という人は少数派だ。多くは計画より売上が低い期間が続き、黒字に転換できたのは3年目以降、という声が多い。中には「収益は改善したが、都市部で会社員を続けた場合の収入には届いていない」という人もいる。
それでも地方移住×FCを選ぶ意味はあるか
厳しい現実を並べてきたが、地方移住×FC開業を「失敗だった」と言う人ばかりではない。
3年後の冒頭の男性は、こう言った。「収益は当初より低いけど、東京にいた頃より生活の満足度は上がっています。毎晩家族と夕食を食べられるし、子どもの学校行事にも行けるようになった。数字だけで判断すると間違える気がする」
地方移住×FC開業を選ぶ動機が、純粋に「稼ぎたい」だけの人にとっては、都市部での事業展開のほうが合理的な場合が多い。 しかし、働き方・生活の質・地域とのつながりといった非財務的な価値を重視する人には、意味ある選択肢になりうる。
加盟前に確認すべき重要なポイントをまとめると:
- 商圏内の実際の人口・世帯数(本部試算の根拠を詳しく確認する)
- 同エリアでの既存加盟者の業績(地方店の平均売上を開示してもらう)
- 採用支援の具体的な内容(地方での採用実績があるか)
- 移住前後のキャッシュフロー計画(移住コストと事業立ち上がり期間を含める)
- 撤退した場合の原状回復・違約金(地方では売却・転売が難しいことも)
「東京を離れてFCを始めたい」という気持ちは、十分に理解できる。ただし、その選択が「人生の豊かさを増やす」ためのものなのか、「稼ぎを最大化する」ためのものなのかを、あらかじめ自分の中で整理しておくことが、3年後の後悔を減らす最初の一歩になる。
データ・本部説明会・既存オーナーとの対話——この3つの情報源を組み合わせて判断することが、地方FC開業での失敗を防ぐ基本だ。「地方は穴場だ」という楽観も、「地方では難しい」という悲観も、どちらも半分しか正しくない。あなた自身の商圏と業種と動機の組み合わせで、答えは変わってくる。