「異業種FCを掛け持ち経営」する現実——複数ブランド並行運営の収益と落とし穴
「1店舗だけじゃ不安。もう1ブランド持てば、リスクが分散できるんじゃないか」
フランチャイズの説明会に足を運んだことがある人なら、一度はそう考えたことがあるはずだ。実際、FC加盟者の中には複数のブランドを並行運営している人が一定数存在する。昼間はコンビニ、夜間は宅配ピザ——といった組み合わせではなく、異なる業種のフランチャイズを別々の法人あるいは個人事業主として運営するケースだ。
「複数ブランドを掛け持ちすれば売上の安定につながる」という期待は、確かに理屈としては正しい部分がある。しかし現実には、思い描いていたようにうまく回らないケースも少なくない。本記事では、異業種FC並行経営の「収益の現実」と「見落としがちな落とし穴」を整理する。
複数FC経営が成立するパターンと、そうでないパターン
まず大前提を確認しておこう。フランチャイズ契約には、多くの場合「競業避止義務」が盛り込まれている。これは「同業・類似業種のFC・独立店舗を運営してはならない」という条項で、違反すると違約金や契約解除の対象になる。
異業種の掛け持ちについては、この競業避止義務の対象外になることが多いため、法的には問題になりにくい。ただし、本部によっては「他FCへの加盟そのものを禁止」する条項を設けているケースもある。契約書の「専念義務」「他の事業の制限」といった条項を必ず読み込む必要がある。
一般的に複数FC経営が成立しやすいのは、以下のような組み合わせだ。
- 時間帯が補完し合うもの:昼の弁当・テイクアウト系 × 夜の居酒屋・宅配系
- スタッフが共有できるもの:同一商圏内で営業時間帯がずれる業種
- 1店舗あたりのオーナー稼働が少ないもの:無人・省人化対応のビジネスモデル(コインランドリー、24時間フィットネス等)
逆に成立しにくいのは、「どちらも常時オーナーが現場に立つことを前提にしている」業種の組み合わせだ。コンビニ × 居酒屋のような組み合わせは、理屈の上ではできても、実際の労働時間を計算するとオーナーが文字通り365日休めない状態になる。
実際に「掛け持ち経営」をしている人の収益構造
フランチャイズ通信簿のデータベース(1,213社収録)に登録されているFC加盟者の声や公開情報をもとに整理すると、複数ブランド運営をしているオーナーには2つのタイプが浮かび上がる。
タイプA:多店舗 × 同業種(ドミナント戦略型)
1つのブランドで3〜5店舗を運営するケース。同一ブランドであれば本部との交渉力が増し、スタッフのシフト融通や仕入れ交渉で有利になることがある。ただしこれは「複数ブランド」ではなく「多店舗展開」であり、本記事の主題とは少し異なる。
タイプB:異業種 × 複数ブランド(ポートフォリオ型)
たとえば「ハウスクリーニングFC + 高齢者配食FC」「買取リユースFC + コインランドリーFC」といった組み合わせ。それぞれの業種特性が異なるため、一方が不調でも他方がカバーするという発想だ。
このタイプの収益シミュレーションを仮置きすると、次のようになる。
- ハウスクリーニングFC:月売上80〜150万円 / ロイヤルティ15〜20% / 実質手取り40〜60万円
- 高齢者配食FC:月売上100〜200万円 / ロイヤルティ5〜8% / 実質手取り50〜80万円
- 合算手取り:90〜140万円
ただしこれは「理想値」であり、両方の管理業務・スタッフ採用・クレーム対応・本部との窓口対応を1人(または少人数)でこなす前提だ。
見落としがちな「4つの落とし穴」
複数FC経営の話になると、収益の足し算ばかりが注目されがちだ。しかし実際には、コストも管理負荷も「掛け算」になることを忘れてはならない。
落とし穴1:本部対応のコストが2倍以上になる
フランチャイズ本部との関係は、SVの定期訪問・報告書提出・キャンペーン対応・システム更新・研修参加など、想像以上に工数がかかる。1ブランドでも「本部対応に時間を取られすぎる」と感じているオーナーは多い。それが2ブランドになれば、単純に2倍……どころか、スケジュール調整の複雑さで3倍以上の負荷になることもある。
落とし穴2:スタッフの「掛け持ち」は機能しない
「2つのFC店舗でスタッフを共有できれば人件費が抑えられる」という計算をするオーナーは多い。しかし現実には、業種が違うとスタッフのスキルセットが異なり、研修コストがかさむ。また、本部からスタッフの他店兼務を禁止されているケースもある。
落とし穴3:資金繰りの綱渡りが2本になる
1店舗の経営でも、開業初年度は赤字になるケースが多い。これが2ブランドになると、どちらかが予期せず苦境に立たされたとき、もう一方の事業キャッシュで補填しなければならない。その結果、どちらも共倒れになるリスクがある。「リスク分散」が「リスク集中」になる逆説だ。
落とし穴4:競業避止義務が思わぬところで引っかかる
「業種が全然違うから大丈夫」と思っていたら、フランチャイズ契約の競業避止条項に「飲食全般」や「小売全般」といった広い定義が使われていたケース がある。また、2つ目のブランドを加盟しようとしたタイミングで「他のFCへの加盟は禁止」という既存契約の条項を見落としていた、というケースも実際に報告されている。
「本部の許可」を取ることの重要性
FC加盟を検討している段階で「将来的に別ブランドも持ちたい」と考えているなら、加盟前の交渉段階で必ず確認・明記させることが重要だ。
具体的には、契約書の以下の条項を確認する。
- 競業避止条項の範囲(同業のみか、異業種も含むか)
- 専念義務条項の有無(他の事業活動全般を禁じているか)
- 他FC加盟の事前承認要件(書面での承認が必要か)
これを曖昧にしたまま加盟し、後から別ブランドを立ち上げようとしたときに「契約違反」を指摘されるケースは、裁判例にも散見される。
それでも「複数FC」が向いている人の特徴
否定的な側面を多く書いてきたが、複数ブランド経営が実際に機能しているオーナーも存在する。彼らに共通するのは、以下の点だ。
- 現場を任せられる店長・マネージャーが育っている:オーナーが現場に張り付かなくても回る体制が整っている
- 1ブランド目で3年以上の黒字継続実績がある:キャッシュフローと経営ノウハウが安定している
- 本部から「多ブランド展開」を公式に認められている:契約上の制約なしに経営の自由度がある
- 異業種でも「顧客層が重なる」:高齢者向け配食 × 介護FC、ファミリー向け学習塾 × 子ども習い事FCのように、既存顧客基盤が活かせる
まとめ:「掛け持ち」は「掛け算のリスク」でもある
異業種FC並行経営は、うまく機能すれば収益の安定と経営の自由度を両立できる可能性がある。しかしそのためには、「2つ目を始める前に1つ目を盤石にする」という順序が大前提だ。
収益シミュレーションを足し算で考えているうちは、まだリスクの全体像が見えていない段階かもしれない。本部対応・スタッフ管理・資金繰り・契約制約——これらが「掛け算」で効いてくることを理解した上で、それでもやると判断できるかどうか。それがFC複数経営の出発点になる。
フランチャイズ加盟を考えている段階なら、まず1ブランド目の契約書の「競業避止条項」と「専念義務条項」を弁護士や中小企業診断士に確認してもらうことを強くすすめる。将来の選択肢を狭めるかどうかが、その条項の中に書かれているからだ。
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