FC加盟後、初めて『人を雇う』日——雇う側になって初めてわかった、採用・労務・スタッフ管理の現実
会社員を20年やっていた私は、自分が「雇われる側」だということを、あまり意識したことがなかった。
毎月決まった日に給料が振り込まれる。有給を申請すれば休める。困ったことがあれば上司や人事に相談できる。それが当たり前の環境だったから、その裏側に何があるかを考えたことがほとんどなかった。
フランチャイズ加盟を機に、初めて「雇う側」になった。
アルバイトの募集をかけ、面接をして、採用を決める。給与を計算して、振り込む。シフトを組んで、指示を出す。それだけのことが、こんなに大変だとは思っていなかった。
今から加盟を考えている人に、「FC経営者になるとは、同時に雇用者になることだ」という視点を持ってほしくて、この記事を書く。
「アルバイト募集」を出す前に知らなかったこと
開業準備の最終段階で、本部から「オープン1ヶ月前には採用を完了させてください」と言われた。私はすぐに求人サイトに掲載した。
掲載費用は大手1社で月5〜8万円。応募は思ったより少なかった。
面接は5人して、2人採用した。そこまでは良かった。問題はその後だった。
採用が決まったとき、「雇用契約書」を用意しなければならないことに気づいた。本部から雛形はもらったが、労働条件通知書との違いもよくわからなかった。「時給」「勤務時間」「休日」「試用期間」「解雇の条件」——これらを書面で明示することが法律で義務付けられていることを、加盟説明会では誰も教えてくれなかった。
さらに困ったのが、採用したスタッフが「社会保険に入れてほしい」と言ってきたことだ。
社会保険の壁——知らなかったでは済まされない
週20時間以上勤務し、月収が一定額(現行で88,000円以上)を超えるアルバイトスタッフは、社会保険の加入が義務になるケースがある。2024年10月からは従業員51人以上の企業への適用が拡大され、今後もさらに対象が広がる方向だ。
私の場合、最初に採用した2人はどちらも週25時間程度の勤務予定だった。つまり、開業初月から社会保険の手続きが必要だったのだ。
手続き先は年金事務所とハローワーク。提出書類は複数あり、期限もある。個人事業主として初めてこれをやった私は、正直パニックに近い状態だった。
社会保険の会社負担分は、労使折半。 給与額の約14〜16%を会社側が負担することになる。月給20万円のスタッフを雇えば、実質的なコストは月23〜24万円に近くなる。この数字を事業計画に入れていなかった加盟者は少なくない。
加盟前に試算すべき数字:
- スタッフ何人を何時間雇うか
- うち社会保険加入対象になるのは何人か
- 保険料の会社負担分を含めた「真の人件費」はいくらか
この計算を本部のシミュレーションシートでやっているかどうか、ぜひ確認してほしい。
「指示を出す」「注意する」「辞めさせる」——誰も教えてくれなかった難しさ
採用後に直面したのは、もう一つの壁だった。
一人のスタッフが遅刻を繰り返すようになった。最初は「次は気をつけてね」と柔らかく言っていた。3回目を超えたあたりで、私は言い方を強めた。すると翌日から急に出勤しなくなった。
「辞めます」の一言もなく、LINEも既読にならない。 シフトの穴が突然空き、急きょ自分が入ることになった。
同僚に言えた立場の私は、今や誰かの上司だ。注意する方法、評価する方法、そして最悪の場合に雇用を終了させる手順——これらは会社員として20年で一度も「自分がやる側」として考えたことがなかった。
解雇は簡単にできない。 労働基準法では、少なくとも30日前に予告するか、30日分の解雇予告手当を払う必要がある。「使えない人材だから明日から来なくていい」は法律違反になりうる。
そして試用期間中であっても、14日を超えた時点からは通常解雇と同じルールが適用される。試用期間=自由に辞めさせられる、というのも誤解だ。
FC本部が研修で教えてくれるのは「商品の作り方」「接客の仕方」「POSの操作」が中心だ。労務管理の実務は、ほぼセルフで学ぶことになる。
FC本部が「採用まで」しか教えてくれない理由
これは別に本部が意地悪なわけではない。本部は「ブランドのオペレーション」のプロであり、「雇用主としての経営」のプロではないからだ。
本部が提供するのは、マニュアル・研修・SVによる指導。それは「その業種のビジネスをどう動かすか」に特化している。一方で、雇用主として知っておくべき知識——労働基準法、社会保険、就業規則の作成——は、自分で身につけなければならない。
実際、開業後に「こんなはずじゃなかった」と語るオーナーの多くが、商品・サービスの問題より「人の問題」を挙げることが多い。採用コストが高い、スタッフがすぐ辞める、シフトが組めない——これらはFC本部がどれだけ優れていても、解決してくれない課題だ。
開業前から準備できること
経験から言えることを、シンプルにまとめる。
① 社会保険労務士(社労士)と早めにつながる
開業前に一度相談するだけで、雇用契約書の雛形を整備し、社会保険の手続きフローを把握できる。初回相談は無料の事務所も多い。月額数万円の顧問契約を結ぶ価値があるかどうかも、相談しながら判断できる。
② 「人件費の真のコスト」を事業計画に組み込む
時給×時間だけでなく、社会保険の会社負担、採用コスト(求人広告費・面接の時間コスト)、離職した場合の再採用コストまで含めた数字を試算しておく。
③ 「スタッフが全員辞めたら自分一人でできるか」を確認する
最悪のケースとして、スタッフが一度に全員いなくなった場合、自分だけで営業できるか。できないのであれば、最低限必要な人数を「採用の保険」として常に1名多めに確保することを検討する。
④ 就業規則を整備する
従業員が10人以上になると就業規則の作成・届出が義務になる。しかしそれ以下でも、就業規則(またはそれに準じたルール文書)を事前に用意しておくことで、トラブル時の対応が格段に楽になる。
フランチャイズに加盟するとは、ビジネスのオーナーになることだ。と同時に、誰かの雇用主になることでもある。
この「雇用主」という役割は、加盟説明会でほとんど語られない。でも、実際の経営の中で最も時間と精神力を使うのは、商品ではなく人であることが多い。
「フランチャイズを選ぶこと」と、「雇用主として経営すること」は、別のスキルが必要な話だ。 後者の準備を、開業前から始めてほしい。
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