フランチャイズ本部の「収支シミュレーション」を鵜呑みにした人が3年後に泣く理由——自分で計算する5つの視点
フランチャイズの説明会で必ず渡されるもの——それが「収支シミュレーション」と呼ばれる資料だ。モデル店舗の売上・ロイヤルティ・人件費・家賃が綺麗に整理されたA4の1枚。「弊社の平均的な加盟店ではこのような収益が見込めます」という説明とともに手渡される、あの資料だ。
ある女性は、この資料を何度も読み返して加盟を決意した。月商400万円、人件費・家賃・ロイヤルティを引いても月45万円の手残り——。「今の年収より少し少ないくらいだけど、自分のお店だから」と自分を納得させた。開業から1年後、実際の手残りは月15万円だった。
「シミュレーションと全然違う」と訴えても、本部の担当者には「努力が足りない」と言われた。彼女が鵜呑みにした数字は、「最良の条件が揃ったモデル店舗の実績」だったのだ。
フランチャイズ本部の収支シミュレーションは、加盟者を集める「広告」である。 この前提を持った上で、自分だけのリアルな収支計画を作ることが、加盟前の最重要作業だ。この記事では、本部資料では見えない5つの視点から、独自の収支計画を作る方法を解説する。
なぜ本部の収支シミュレーションと現実がずれるのか
本部が提示する収支シミュレーションが楽観的になりやすい理由は、構造的にある。
まず「モデル店舗の選定バイアス」だ。説明会で使われる実績データは、成功している店舗から収集されることが多い。失敗した店舗、閉店した店舗のデータは含まれない。業界用語で「サバイバーシップバイアス」と呼ばれる現象だ。本部が「平均的な加盟店の実績」と説明していても、それは「生き残っている店舗の平均」に過ぎない場合が多い。
次に「固定費の過小見積もり」がある。シミュレーションに記載された家賃・水道光熱費・通信費は、都市部と地方の差、物件の新旧、季節による変動を一切加味していないことが多い。東京都内で家賃25万円で掲載されているシミュレーションが、実際の候補物件では45万円になるケースも珍しくない。
さらに、「人件費の現実離れ」は深刻だ。アルバイト最低賃金が毎年上昇している2026年現在、シミュレーション上の人件費が2〜3年前のデータのままになっているケースがある。また、病欠・急な退職・採用コストといった「イレギュラーな人件費」はシミュレーションに含まれていない。
視点①「売上は下振れ前提」で計算する
本部のシミュレーションが「月商400万円」と記載されている場合、自分の計算では「月商280万円(70%)」を基準に設定しよう。
開業後1年目はどんな業種でも新規効果が働く。顧客がお試しで来店し、一時的に売上が高くなる。問題は2年目以降だ。新規効果が消え、リピーター獲得が課題になった段階での売上が「本当の実力値」だ。多くの加盟者がこのギャップで資金繰りを狂わせる。
具体的には、本部が「モデル店舗実績」として示す月商から以下の調整を行う。
- 立地ダウン補正: 本部推奨立地と自分の候補物件の商圏人口・競合状況の差を反映
- 新規効果消失後補正: 開業から18ヶ月後の安定月商として70〜80%に設定
- 業種別季節変動: アイスクリーム・飲食系は夏冬で売上が20〜30%変動することを前提に、閑散月をシミュレーションに組み込む
「最悪の場合、月商が60%になっても黒字を維持できるか」——この問いに「YES」と答えられない収支計画は、再設計が必要だ。
視点②「固定費は現地確認で実額を使う」
本部の収支シミュレーションで最もズレが生じやすいのが固定費だ。シミュレーション上の家賃・水道光熱費・通信費はあくまで「参考値」に過ぎない。
自分の収支計画では、必ず実際の候補物件の賃料を使うこと。内見時に不動産会社から管理費・共益費・消費税を含めた「実質的な月次固定費」を確認し、それをそのまま使う。本部が「家賃20万円」と書いていても、候補物件が30万円なら30万円で計算する。
水道光熱費も同様だ。同じ業種・同じ規模の既存加盟者に直接確認するのが最も確実な方法だ。本部の説明会では既存加盟者への面談機会が設けられることが多いが、「夏場の電気代はいくらでしたか」「水道代の月平均は」という具体的な質問をする加盟検討者は少ない。この差が、開業後の収支の差につながる。
設備の維持・修繕費も忘れてはならない。 厨房機器は5〜10年で故障・更新が必要になる。これをシミュレーションに含めているFCは少ない。月次の積立として機器更新費を「月3〜5万円」加えておくと現実的な計算になる。
視点③「人件費は時給・シフトを実際に設計して計算する」
「人件費月80万円」と記載されたシミュレーションを見て、「妥当だな」と判断するのは危険だ。その数字がどの時給・何人・何時間のシフトを前提にしているか確認できていれば問題ないが、多くの場合、内訳は開示されない。
自分で計算するとき、以下のステップを踏もう。
- 必要なシフト時間を算出する: 営業時間×人員数から週間必要人時(マンアワー)を計算する
- 地域の実勢時給を調べる: 最低賃金ではなく「採用できる時給」を調べる。2026年現在、都市部では時給1,300〜1,500円が相場だ
- 社会保険料・採用コストを加算する: 社員を雇う場合、給与の約15%が社会保険料として追加で発生する。採用コストは1人あたり10〜20万円を見込む
- オーナー自身の人件費を明示する: 「自分の労働はタダ」として計算すると、実態が見えなくなる。オーナー自身の月次報酬(生活費+退職後の積立)を人件費に含める
この4ステップで計算した人件費と、本部シミュレーションの人件費を比較すると、多くの場合20〜40%のギャップが生まれる。
視点④「ロイヤルティの実質負担」を正確に理解する
ロイヤルティは「月商の〇%」と説明されることが多いが、計算のベースが「売上」なのか「粗利」なのかで実質負担は大きく変わる。
- 売上課金型: 月商400万円×ロイヤルティ5%=月20万円の固定的支出
- 粗利課金型: 月商400万円・粗利率50%の場合、粗利200万円×ロイヤルティ10%=月20万円
数字が同じでも、売上課金型のほうが赤字月でもロイヤルティ支払いが発生するため、資金繰りリスクが高い。
また、最低保証ロイヤルティ(ミニマムロイヤルティ)の有無も確認必須だ。「売上〇%だが最低〇万円」という条件がある場合、開業初期や閑散月でも最低額を支払う義務が生じる。このコストがシミュレーションに明示されていないことは多い。
さらに、定期的な「更新費・研修費・システム利用料」などの追加費用も把握しておこう。月次のロイヤルティ以外に年間〇万円が発生する契約になっていることがある。
視点⑤「本部シミュレーションを複数社で比較する」
自分で計算した数字が得られたら、最後に複数のFC本部の収支シミュレーションを横並びで比較しよう。同一業種の複数FCを比較することで、「どの本部が現実的な数字を出しているか」が浮かび上がる。
楽観的すぎる数字を提示する本部は、加盟者集めを優先している可能性がある。一方、保守的で説明責任を果たした収支シミュレーションを出す本部は、加盟者の長期的な成功を重視している可能性が高い。
「この数字はどのように算出しましたか」「最も業績が悪いモデル店舗の実績を教えてください」と質問してみよう。 この問いへの対応が、本部の誠実さを測る試金石になる。データの出どころを明かさない、質問を流す、「個別の店舗情報は開示できない」と拒絶する——こうした反応は、加盟前のリスク判断に有用な情報だ。
「本部の数字」ではなく「自分の数字」で決断する
フランチャイズ加盟は、数千万円の借金を背負い、数年間の生活を賭ける決断だ。その判断の根拠が、本部が作成した広告的な資料1枚であってはならない。
本部の収支シミュレーションを参考にしながらも、売上下振れ・実際の固定費・現場の人件費・ロイヤルティの実質負担——これらを自分の手で計算した数字が、本当の判断材料だ。
「計算して出てきた数字が怖い」と感じたなら、それは正常な感覚だ。FC加盟は、楽観的な予測で乗り越えられるものではなく、最悪のシナリオでも生き残れる計画があってこそ成立する。
3年後に「こんなはずじゃなかった」と言わないために、加盟前の今、計算する時間を惜しまないでほしい。
*フランチャイズデータバンク(fc-databank.com)では、1,144社のFC情報をもとに加盟検討に役立つデータを提供しています。*